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整式の割り算と余りの一意性、整数との比較や一般化について

【目次】
0.はじめに
1.整式の割り算(除法)と余り(剰余)の一意性
  1-1.定義と解説
  1-2.証明
2.発展1:科学(学問)における比較と一般化
  2-1.比較する
  2-2.分解する
  2-3.分類する
  2-4.法則を見つける
  2-5.一般化する
3.発展2:整数の割り算との比較と一般化
  3-1.整数と整式の比較
  3-2.整数と整式の比較から一般化へ
4.数学の他学問への応用

はじめに

整式の割り算(除法)と余り(剰余)の一意性は、高校数学の教科書(数研出版、高校数学の教科書、以下同じ。詳しくは、高校数学マスター基本方針:参考にする教科書を参照ください)では数学Ⅱの単元「式と証明」の節「式と計算」で紹介されていますが、証明が省略されています。このような原理に近い命題の証明を素通りせずに自分で押さえて行けるかが、数学の理解力や応用力に直結する勉強のコツなので、ここではその証明を初めに示したいと思います。

その上で、この整式の割り算と余りの一意性は、数学において広範な応用を持つとても重要な内容なので、その深い理解への準備として、まず、将来的な応用に繋がるように科学や数学の一般化(抽象化)という考え方に触れ、それから数学Aの単元「整数の性質」の節「約数と倍数」で解説された「整数の割り算と商および余り」と比較しつつ、実際に整数と整式の両者の一般化について解説を行いたいと思います。

ちなみに、整式の重要性は、数学Ⅰの教科書が単元「数と式」で始まり、数学Ⅱの教科書が単元「式と証明」で始まることからも分かるように、高校数学、引いては数学全体において代数学という形を通して、ほぼすべての数学と関係しながら、それを下支えするものと言えます。別の言い方をすると、数学にとっての「数」が代数学にとっての「式」であり、数学にとっての「整数」が代数学にとっての「整式」と言えるかもしれません。整数、整式の基礎を学ぶことは、数学の基礎を理解することに他なりません。

最後に数学の他学問への応用、勉強の仕方についても言及したいと思います。それでは早速、整式の割り算(除法)と余り(剰余)の一意性の証明から入りたいと思います。

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整式の割り算(除法)と余り(剰余)の一意性

定義と解説

高校数学の教科書の数学Ⅱに掲載されている命題を引用すると、

【整式の割り算】
\(A\)と\(B\)が同じ1つの文字についての整式で、\(B \neq 0\)とするとき、
\(A=BQ+R\)、\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式
を満たす整式\(Q\)と\(R\)がただ1通りに定まる。

【解説】
まず、整式の定義を数学Ⅰより引用しながら復習すると、「数や文字およびそれらを掛け合わせてできる式」を単項式と呼び、「いくつかの単項式の和として表わされる式」を多項式と呼び、「単項式と多項式を合わせて」整式と呼ぶのでした。

この定義から押さえておきたいことは、「単項式の数の部分」、つまり、係数は「数」としか指摘されていませんが、整式と言っても係数は整数に限られるのではなく、有理数全体、実数全体、複素数全体などを数の範囲としているということと、整式を分子と分母に配置した形の分数式は整式とは言わないということです。前者の係数の範囲については、後述の証明の後により詳しく触れますが、整式と言っても上記の命題が成立するためには整数全体を係数の範囲とすることはできないことも指摘したいと思います。

係数が整数であるとは限らないのであれば、整式という名前の由来はどこから来たのかというと、まず分数式を含まないということや、何より整数と同じように和差積除を定義できて、整数と同じように割り算と余りについての上記命題も成立することによっていると思います。この整数との比較については、後の章で詳しく触れたいと思います。

上記の命題に話を戻すと、その整式が「同じ1つの文字」というのも大きな条件です。単に整式と言った場合には、文字が一種類とは限らないからです。同じ1つの文字についての整式のことを、一変数多項式と言ったりもします。複数の文字の場合には、多変数多項式と言います。

そして何より、この命題の一番重要なポイントは整式\(Q\)と\(R\)が「ただ1通り」に定まることです。仮に「\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式」という条件を除けば、「\(A=BQ+R\)」を満たす整式\(Q\)と\(R\)の組は複数見つかります。しかし、「\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式」という条件を付けると、そのような整式\(R\)は一つしかなく、整式\(Q\)も一つしかない、かつ、一組は必ずあるわけです。

この商と余りが「ただ1通り」に定まるということはとても強い結論で、なぜこの整式の特徴が重要なのかを後の章の整数との比較やこのページ全体の解説で掴めると良いと思います。ちなみに、「\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式」という前提条件が加わると、なぜ整式\(Q\)と\(R\)が「ただ1通り」に定まるのかも、以下の証明の後半から具体的に掴めると良いと思います。

証明

【証明】
「同じ1つの文字」を\(x\)とし、整式\(A\)の次数を\(n \geq 0\)、整式\(B\)の次数を\(m \geq 0\)とします。

整式\(A\)の最高次数の項の係数を\(a\)とし、整式\(B\)の最高次数の項の係数を\(b\)とします。

\(n < m\)であれば、\(Q=0\)、\(R=A\)とすれば\(R\)は\(B\)より次数の低い整式となります。一方、\(Q \neq 0\)とすると\(BQ+R\)の次数は\(m\)以上になってしまい、\(A=BQ+R\)より両辺の次数は等しいので\(n=m\)が成り立ち、\(n < m\)に矛盾します。したがって、条件を満たすには整式\(Q=0\)でなくてはならず、したがって、\(R=A\)も定まります。つまり、条件を満たす整式は\(Q=0\)、\(R=A\)のただ一通りに定まることが分かりました。

\(n \geq m\)であれば、\(A – \frac{a}{b} x^{n-m} B\)を取ります。これも整式で、その次数は\(n\)よりも小さくなることが分かります。

したがって、計算結果の整式に対して\(B\)によるこの操作を繰り返せば、必ず操作のたびに次数は下がり、有限回の操作で最後には次数が\(m\)よりも小さい整式か、又は\(0\)が得られることが分かります。この最後の計算結果を整式\(C\)とします。

ちなみに、数学Ⅰの教科書では「数\(0\)の次数は考えない」としていますので、\(C=0\)の場合には次数が\(m\)よりも小さい整式ではなく、単に\(C=0\)が得られるという表現が正しいことに注意してください。特に\(B\)の次数が\(m=0\)の場合には、つまり、\(B\)が数だけの単項式の場合には、必ず\(C=0\)となります。些細なことかもしれませんが「\(R\)は\(B\)より次数の低い整式」ではなく「\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式」と書いているのは、「数\(0\)の次数は考えない」という定義との整合性を取っているわけです。もう少し明確に言うと、数\(0\)の次数は考えないので、数\(0\)も整式ですが\(B\)より次数が低いとも高いとも言えないのです。

今、整式\(D\)を上記の繰り返しで得られた\(-\)マイナス部分を含まない\(B\)の係数(例えば、一番初めは\(\frac{a}{b} x^{n-m}\))の和とすると、\(B\)を括りだせば\(A-D \cdot B = C \)が成り立つことが分かります。したがって、\(A = B \cdot D + C \)であり、\(Q=D\)、\(R=C\)とおけば、\(C\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式なので、整式\(D,C\)が条件を満たしていることが分かります。

ここで仮に、条件を満たす整式\(Q\)と\(R\)がただ1通りに定まらないとすると、今、\(Q=D\)、\(R=C\)は少なくとも一通りあったのだから、条件を満たす整式\(Q=D’\)、\(R=C’\)で\(D \neq D’\)又は\(C \neq C’\)なる場合があることになります。

まず、\(D \neq D’\)の場合を考えると、\(A = B \cdot D + C \)かつ\(A = B \cdot D’ + C’ \)なので、差し引くと、\(0 = B \cdot (D – D’) + C – C’ \)が成り立ち、\(D \neq D’\)なので、\(D – D’ \neq 0\)となります。そうすると、\(0 = B \cdot (D – D’) + C – C’ \)より、\(- B \cdot (D – D’) = C – C’ \)ですが、\(D – D’ \neq 0\)なので左辺の次数は\(m\)以上になりますが、右辺の\(C\)と\(C’\)は共に\(m\)より次数が低いので、右辺\(C-C’\)自体も\(m\)より次数が低いはずであり、これは矛盾となります。したがって、\(D = D’\)であることが分かりました。

そうすると、\(C \neq C’\)でなければなりませんが、すでに\(D = D’\)と\(0 = B \cdot (D – D’) + C – C’ \)より、\(0 = C – C’ \)が導けてしまいますので、やはり、矛盾します。したがって、条件を満たす整式\(Q=D’\)、\(R=C’\)で\(D \neq D’\)又は\(C \neq C’\)なる場合がないことが分かり、つまり、条件を満たす整式\(Q\)と\(R\)がただ1通りに定まることが分かりました。

ここで、先ほど解説で触れた係数の範囲についての話をしておきたいと思います。この証明を見ると、\(A\)を\(B\)で割るためには、\(B\)の係数を\(A\)の係数に合わせるために、係数の取りえる数の範囲に整式\(D\)の係数、例えば、\(\frac{a}{b}\)が入っていないといけないことが分かります。

したがって、仮に整数全体を係数の取りえる数の範囲とすると、整数は分数を含まないので\(\frac{a}{b}\)が含まれない場合もありえてしまい、異なる規約(例えば、できる限り係数の絶対値を小さくすることとし、\(B\)の次数よりも小さい余りという条件を除くなど)で余り、そして商を定義することなどはできるかもしれませんが、上記命題のような通常の余り、そして商を定義することはできなくなります。つまり、整数全体を係数の範囲とすると、上記の命題は成立しないということになります。

一方で、有理数全体を係数の取りえる数の範囲とすると、どのような有理数同士の分数もやはり有理数に含まれるので、割り算は必ずできることが分かります。実数全体や複素数全体を範囲としても同様のことが言えます。このように細かなことですが、整式と言っても係数の範囲は整数全体ではないことにも注意を払ってみましょう。

さらに、整数全体、有理数全体、実数全体、複素数全体などの全体ではなく、もう少し細かく限定した係数の範囲や、その他の数以外の対象を係数の範囲(その場合は、演算の定義も代わります)として上記の命題が成立するのかも興味深い内容だと思います。勉強が先に進むと、考えてみる機会もあると思います。

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発展1:科学(学問)における比較と一般化

整式と整数の比較、そして一般化を議論する前に、少し数学を含んだ科学(学問)の一般論の話をしたいと思います。ここでは、科学的研究法(論理的探究法)、比較、分解、分類、法則、一般化(抽象化)という概念について理解を深めて頂ければと思います。この章は、自然科学のみならず、社会科学系の理解にも役立つ内容になっていると思います。なお、前提知識として論理とは何か、命題、集合と推論規則についてがあると理解が深まります。

比較する

例えば次章で行う整数と整式の比較のように、何かと何かの比較というのは、科学的研究法の一つの出発点です。研究対象ただ一つを眺めていても気付けなかったことでも、多くの研究対象を比較することで初めて研究対象に共通してあてはまる普遍的な法則を見つけることができます。例えば、生物学のダーウィンの研究はその典型と言えます。彼は、ガラパゴス諸島という多様で個別化された環境内で暮らす各生物を比較することで進化論を見つけ出すことになりました。

数学にこれをあてはめると、例えば整数だけを眺めていても気付けなかったことでも、整数以外の研究対象、例えば有理数、実数、さらには数ではない式、あるいは、幾何など、多くの研究対象と比較することで初めて研究対象に共通してあてはまる普遍的な法則を見つけることができる、ということになります。共通してあてはまる普遍的な法則(例えば集合とその演算や写像)とまではいかなくとも、多くの発見が生じるのは、研究対象の視野を広げて比較を行った場合であること、これは科学的研究法の一つの出発点です。

分解する

厳密に比較をすることによって、同じと思っていた研究対象の違う特徴を見つけ、違うと思っていた研究対象の同じ特徴を見つけたりすることがよくあります。そして、その特徴により研究対象を分解することができます。例えば、鳥という研究対象を他の動物と比較した場合に、羽、くちばし、などの鳥だけが持つ特徴によって鳥という研究対象を分解していくことができます。

一方で、鳥という研究対象を他の動物と比較しなければ、羽があるとか、くちばしがあるだとかは、根本的には、鳥が持つ特徴として特別に認識することはできないわけです。羽、くちばしはちょっと当たり前過ぎるので、鳥の多くが恒温動物であるという特徴の方が他の動物と比較することによってしか発見できない特徴の例としては納得できるかもしれません。

分類する

研究対象を比較し、その特徴に分解したら、次にその特徴ごとに研究対象を一まとめにし、そのまとまり同士で他と区別したり、あるいは階層化したりします。これを研究対象の分類と言います。生物学ではお馴染みの考え方ですね。「生物 > 動物 > 哺乳類 > 霊長類 > 人間」だったり、「生物 > 動物 > 哺乳類 > 有蹄類 > 馬」だったり、各分類同士は、階層の上下を含めてそれぞれの特徴の有無で区別されていきます。このような分類による研究対象の網羅的な整理が科学の基本となります。これは数学でも物理でも化学でも、あるいは一般的なプログラミング手法や法律でも頻繁に用いられている考え方、というよりは学問の基本となる考え方です。

例えば、高校数学で数は、自然数、奇数、偶数、整数、有理数、無理数、実数、虚数などと分類されたと思います。これらの分類も数を研究対象として、比較、分解、特徴による分類を行うことによって整理されています。このページでは、次章で整数や整式を同類に含むような分類を示したいと考えていますが、大学の数学範囲に入るので紹介程度に留めるつもりです。ただ、数学においてはとても基本的な分類です。

法則を見つける

では、何でもかんでも分類を行ったらそれで終わりでしょうか。もしも、生物学が一つの分類だけを行い、そこからの進展や成果が何もなければ科学の基礎ではあるけれども玉石混淆の博物学というものになってしまうのかもしれません。しかし、完全に無意味な博物学というものはありません。なぜなら、研究対象を分類している時点でそこには多くの研究対象に対する特徴が見出されているからです。

そして、その特徴の中でも研究対象の広範囲に見いだされ、かつ、他の特徴の決定に関わる重要な特徴を原理とか法則と呼びます。つまり、科学において研究対象の分類は、研究対象において成り立つ重要な法則の発見のための模索としてなされると言えます。分類は一つだけとは限りません。考えれば考えるほど分類は多岐に渡る可能性があり、しかし、無意味な分類に固執しても利益は何も生まれません。一方で、仮に原理とか法則と呼ばれる特徴を見い出すことができたならば、そこから生み出される分類は、一つの有益な学問分野を生み出したことと同じことだと言えます。

ちなみに、重要な特徴を原理とか法則とか言うと、少しピンと来ないかもしれません。しかし、特徴とは、ある研究対象と別の何らかの対象に成立する関係であると理解できれば、それが数学Ⅰの単元「数と式」、節「集合と命題」で学んだ条件や命題で表されると分かります(参照:命題について)。それが、教科書では数式で表されるものを中心に扱っていますが、言葉でしか表せないものに範囲を広げたとしても、科学のように対象が明確な単純な例においては大きな差異はありません。そして、原理とか法則というのは、重要な命題という意味です。したがって、重要な特徴とは、原理とか法則とか言われるものと同じものを指しているのです。(より詳しくはこちらを参照ください:論理とは何か、命題、集合と推論規則について3-2.推論関係と命題、以下数式はなぜ文字を使うのか?3.数式は何を表しているのか?、以下

例えば、鳥にとって重要な特徴は、「鳥は羽を持つ」という特徴であり、法則です。この法則は、「鳥は飛ぶ」という法則の根拠であり、さらにこの「鳥は飛ぶ」という法則は、その他の鳥が持つ多くの生態を説明するための決定的に重要な特徴になっています。したがって、鳥を研究対象とした場合に、「鳥は羽を持つ」という特徴は、原理と言えるのだと思います。

これと比較してほしいのは、ニュートンの運動の第一法則です。ニュートン力学の研究対象は、この世にある物体すべてです。この世にある物体すべてに対して、ニュートンは運動の第一法則で「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける」と言及したのです。そして、ニュートン力学で説明される多くの物体の運動法則がこの第一法則を根拠の一つとして導き出されるから、この第一法則はニュートン力学の原理と呼ばれるのです。要点を言葉で表せば「鳥は羽を持つ」「鳥は飛ぶ」「物体は質量を持つ」「物体は静止する」、とても似ています。それは当然で、ニュートンの運動の第一法則は、原理であり、物体の特徴を表しているからです。

ニュートンの画期的だった点は、地上の物体から天体まで、すべての物体について成り立つ運動法則を発見したことにあり、いくつかの原理の発見がニュートン力学という一つの有益な学問分野を生み出したと言えます。

一般化する

このように、一羽の鳥で成り立つ、二羽の鳥で成り立つ、、多数の鳥で成り立つことを比較し、その特徴を分解し、分類し、すべての鳥で成り立つ法則を見い出すこと。同じく、庭のリンゴで成り立つこと、ピシャの斜塔から落ちる鉄球で成り立つこと、夜空に浮かぶ月や惑星で成り立つこと、、多数の物体で成り立つことを比較し、その特徴を分解し、分類し、すべての天体で成り立つ法則を見い出すこと。このようなことを特徴や法則の一般化(抽象化)と言います。

後者について、ニュートンの逸話からすると、庭のリンゴで成り立つ運動法則を夜空に浮かぶ月や惑星にまで広げて一般化できることを彼は見出したと言えます。もちろん、たんにニュートンの超人的な直観だけによってそれを発見できたのではなく、それまでのガリレオ・ガリレイ、ルネ・デカルトら先人の観察や理論の発展、ニュートン自身の観察や理論の発展があって、それらを集大成する発見を得たと言えるのです。

このように、学問にとって何らかの特徴や法則が研究対象のどれだけの範囲でどれだけの正確性や再現性を保って一般化できるかどうかは、学問的発見の成否そのものと言えるだろうと思います。

ただし、法則や原理の一般化(抽象化)が大きな論点にはなるのですが、一般化(抽象化)をある特徴の適用範囲の拡大、あるいは、ある特徴を研究対象の広範囲に見い出すこと、と捉えると「分類する」こと自体が大なり小なり一般化(抽象化)の連続と言えます。分類作業は、学問的な発見の連続でもあり、膨大な量の小さな発見のいくばくかが思ってもみなかった大きな発見に化けて行くというのも学問の醍醐味と言えます。

ちなみに、一般化された法則や原理の適用範囲やその正確性や再現性には限界があります。その限界の外に新たな発見があるとも言えます。しかしながら、その限界を見誤ることが多くの発見を見逃す機会にもなり、あるいは、誤解を生みだす要因にもなります。一番避けるべきなのは無配慮な類推適用です。例えば、ダーウィンの進化論は、進化論自体よりも誤解や人間社会への類推適用での混乱の歴史の方が注目に値します。

以上で、一般論としての科学(学問)における比較から一般化の話を終わりにして、次は、話を戻して整数と整式についてこの議論がどのようにあてはまるのかを見て行きたいと思います。

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発展2:整数の割り算との比較と一般化

前々章より、整式は、その名前に「整」と付いていますが、係数に整数のみを取れるわけではないということが分かりました。それでは、なぜ整式と呼ぶのかというと、少し前述もしましたが、整数と同じように和差積除を定義できて、整数と同じように割り算と余りについての命題も成立することにあると思われます。ただ、なぜ断定しないかというと、物事の名前というのは歴史的な経緯や偶然によって何となく言い慣わされてきた側面もあるので、名前のニュアンスはここにあるとまでしか言えないことによります。

整数と整式の比較

それでは、一つづつ和差積除、剰余などについて整数と整式を比較してみましょう。単に定義ができるだけではなく、数学Ⅰで学んだ交換法則、結合法則、分配法則なども共に成り立つか、あるいは、成り立たないかを確かめることが大切です。

【和(加法)の例】
和の定義が可能:
\(4+5=9\)
\((x+1)+(x^2+2)=x^2+x+3\)
和の結合法則:
\((4+5)+2=4+(5+2)=11\)
\(((x+1)+(x^2+2))+(x^3)=(x+1)+((x^2+2)+(x^3))=x^3+x^2+x+3\)
和の交換法則:
\(4+5=5+4=9\)
\((x+1)+(x^2+2)=(x^2+2)+(x+1)=x^2+x+3\)
【差(減法)の例】
差の定義が可能:
\(4-5=-1\)
\((x+1)-(x^2+2)=-x^2+x-1\)
【積の例】
積の定義が可能:
\(4 \cdot 5=20\)
\((x+1) \cdot (x^2+2)=x^3+x^2+2x+2\)
積の結合法則:
\((4 \cdot 5) \cdot 2=4 \cdot (5 \cdot 2)=40\)
\(((x+1) \cdot (x^2+2)) \cdot (x^3)=(x+1) \cdot ((x^2+2) \cdot (x^3))=x^6+x^5+2x^4+2x^3\)
積の交換法則:
\(4\cdot 5=5\cdot 4=20\)
\((x+1)\cdot (x^2+2)=(x^2+2)\cdot (x+1)=x^3+x^2+2x+2\)
【除の例】
除の定義が可能:
\(6 \div 3 = 2\)
\((2x^2+2x) \div (x+1)=2x\)
(ただし、すべての要素間ではない)
\(6 \div 5 = NONE\)
\((2x^2+x) \div (x+1)=NONE\)
【和と積の分配法則】
\((4 + 5) \cdot 2=4 \cdot 2 + 5 \cdot 2 = 18\)
\(((x+1) + (x^2+2)) \cdot (x^3)=(x+1) \cdot (x^3) + (x^2+2) \cdot (x^3) = x^5 + x^4 + 3x^3\)
【剰余の例】
整数の割り算と商および余り:
整数\(a\)と正の整数\(b\)に対して、
\(a=bq+r,\ \ 0 \leq r < b\)
を満たす整数\(q\)と\(r\)がただ1通りに定まる。
(数学Aの単元「整数の性質」の節「約数と倍数」、「整数の割り算と商および余り」より引用)
整式の割り算と商および余り:
\(A\)と\(B\)が同じ1つの文字についての整式で、\(B \neq 0\)とするとき、
\(A=BQ+R\)、\(R\)は\(0\)か、\(B\)より次数の低い整式
を満たす整式\(Q\)と\(R\)がただ1通りに定まる。
【和における0の役割】
演算の他方が演算結果となる。
\(0+3=3\)
\(0+(x+1)=x+1\)
【積における0の役割】
演算結果がそれ自身となる。
\(0 \cdot 3=0\)
\(0 \cdot (x+1)=0\)
【積における1の役割】
演算の他方が演算結果となる。
\(1 \cdot 3=3\)
\(1 \cdot (x+1)=x+1\)
【足すと0になる要素が必ずある】
\(5+(-5)=0\)
\((x+1)+(-x-1)=0\)
【掛けても0にならない】
\(0\)以外のどの要素を掛けても\(0\)にならない。
\(3 \cdot -1 = -3\)
\((x+1) \cdot -x = -x^2-1\)
【掛けても1にならない】
1、-1同士以外のどの要素を掛けても1にならない。
\(3 \cdot -1 = -3\)
\((x+1) \cdot -1 = -x-1\)

など。以上の通り、整数と整式を比較すると、これだけ多くの同じ法則が共に成り立ちます、あるいは、同じ法則が共に成り立ちません。この成り立つ法則(条件)の共通性から整数という呼び名にちなんで、「整式」と呼ばれるのも納得できるのではないでしょうか。

整数と整式の比較から一般化へ

前々章で紹介した科学的研究法からすると、前節の比較によって得られた整数と整式の特徴から分解、分類を行い、法則を見出して一般化して行けば良いという流れになります。

すでに多くの特徴が見出されているので、その特徴一つを取り上げれば整数と整式を「分解」したということになります。例えば、和の例を取り上げると、和を定義できるそのことが整数と整式の一つの共通の特徴であり、整数と整式の一つの特徴を整数と整式から見出して、整数と整式を分解したということになります。

次に、分解した特徴により分類を行うのでした。例えば、和の例では、整数と整式はどちらも和を定義できるのであまり分類としての役割を果たしません。そこで、例えば、視野を広げて自然数や有理数、差や割り算を考えてみましょう。

たしかに和の例では、自然数も有理数も和を定義することができます。しかし、差や割り算の例ではどうでしょうか。自然数は差を取ると自然数の中には納まらず、有理数は割り算をしても有理数の中に納まります。一方で、整数は差を取ると整数の中に納まり、割り算をすると余りが出て整数の中に納まりません。このように、差や割り算の例では、自然数、整数、有理数の特徴が異なり、異なる分類に収めることができます。

そして、最後に法則を見出し、一般化する工程を確認してみましょう。前節の比較を改めてよく観察すると、和も差も積も除も、剰余以外は、二つの数から一つの数への対応を取り扱っていることに気付きます。つまり、二つの数が決まると一つの結果としての数が決まるという計算を繰り返しているということです。

このような対応(計算)を二項演算と言います。この和差積除に共通する特徴は、法則という名に値する重要な発見です。なぜなら、上記に出てくる結合法則、交換法則、分配法則いずれも、扱う対象が整数であっても整式であっても和差積除であっても、少なくとも二項演算を前提としていることが分かるからです。くわえて、視野を広げれば二項演算があてはまる対象は自然数からはじまる数、整式からはじまる式、その他にも行列、幾何などかなり適用範囲が広くなります。結果、二項演算を見い出すということは、かなりの多くの数学分野に適用可能な法則の一般化と言えます。

そもそも、数学という分野において数という量的概念自体が一番の抽象的な原理であり、数学という学問分野における分類の上位に置くことのできる対象だと思います。しかし、カントールの集合の発見以来、集合を数学という学問分野における分類の上位に置くことがスタンダードとなりました。ただ、集合に代わるより優れた概念の発見にも数学者たちは鋭意挑戦していますので、数十年~数百年後に集合が高校数学で変わらず教えられているかは分かりません。

ここで何を指摘したいかというと、つまり、集合はニュートン力学の運動法則のように数学という学問分野の広域に適用される原理的存在になっているということです。さらに踏み込むと、数学的な対象はそれが持つ個々の特徴に分解されて、改めて集合にその特徴を加えていくことによって再構成し、その再構成された分類あるいは数学的対象を研究する、ことが数学の一つの作法になっているとさえ言えると思います。

話を戻すと、したがって、大学に入ると上述した二項演算も集合の要素に対して定義されます。そして、その二項演算が持つ特徴の違い、例えば、結合法則、交換法則、分配法則が成り立つか成り立たないか、二項演算が一つしかないのか二つ以上定義されているのか、などで研究対象の分類が階層的になされていきます。そして、その分類ごとにその特徴の違いによって、ある法則が成り立つか成り立たないか、などの結論がまったく異なり、多くの学問分野へと派生していくことになります。

整数と整式は、このような演算の特徴による分類の中では、とても近い対象の分類に位置づけられることになります。その中では、このページで剰余が一意に定まることを証明したように、その分類で仮定された特徴によって剰余が一意に定まることを証明することができます。あるいは、異なる分類の方法として剰余が一意に定まること自体を特徴とすることもありえます。

このような話を学ばずに大学の数学を学び始めると、その分類の多さや入り組んだ内容に驚いて入門につまづくことも多いかと思いますが、重要な結果が属する基本的な分類はそれほど多くはなく、何より、このページで学んだように重要な原理、法則から順番に押さえて行けば効率が良いと分かると思います。その分類は大雑把ですが、例えば「集合 > 二項演算 > 群 > 環 > 体」という並びで教えられ、整数と整式は環に分類されることになると思います。

数学の他学問への応用

高校生でも「発展1:科学(学問)における比較と一般化」の章で説明したような内容を理解して興味が湧いてきたその時は、勉学を進める大きなチャンスだと思いますので、どんどん先の数学でもその他の学問でも学んでみると良いと思います。理解できないのであれば、理解できるところまで戻ってまた先に進む、その繰り返しが大切です。

もしも、学者、科学者、数学者になりたい人であれば、学校で教えられていることをただ学ぶという姿勢では、受験や進学との兼ね合いはあったとしても、順調な進路以上に将来の可能性を潰す恐れの方が高いと思います。自分の興味の湧いた物事を徹底的に探究するという姿勢を持つことがより有望な将来を切り開くことと思います。多くの優秀な学者、あるいは経営者や政治家、あるいは何でも大成した人物は、画一的な学校教育をただ受容するだけで育ってはいないように感じます。

もちろん、身に付けておくと必ず役立つ応用の効く知識・教養というのはあります。言うは易しできちんと身に付けられるかが難しく、そして中身の選別が大切なのですが、例えば、道徳や宗教、哲学、数学や科学、法律学や経済学、語学などです。日本の高校生にこれをあてはめるとスタンダードは、儒教や神道や仏教やキリスト教、名前を覚える程度の雑多な哲学、数学や科学、法律学や経済学の概略、語学(日本語、英語、漢文、古文等)となり、受験や進学との兼ね合いでは良いのですが、欧米(高校とは限定せず)の一つのスタンダードであろう、キリスト教やユダヤ教、合理主義的な哲学(ソクラテスやデカルトなど)、数学や科学、法律学や経済学、語学(英語、仏独語、ラテン語、ギリシャ語等)と比べると、かなり系統性や学習効率・効果で厳しい側面を感じます。

ちなみに、時間がある方は課題として、化学や物理学でも上述した生物学や数学で指摘したような分類を作ってみましょう。興味がある方は、法律学でも同様の分類を作ってみましょう。ポイントは、分類の上部に何が来るかを押さえることです。つまり、原理や法則を押さえることです。前述した通り、何かを分類した場合に、分類の基準は多様であり、その結果の分類も様々な形式がありえます。分類が入り組むことも当たり前です。あまり些末な点において分類すること自体が自己目的化しないようには気を付けましょう。大事なことは、原理を出発点として物事を考える習慣を持つことで、その視点が学問の理解の深さや効率性を上げてくれます。

さらに余談ですが、これからの時代は多くの方がプログラミングを学ぶ機会を持つことになると思います。先に少し触れましたが、昨今のプログラミング言語の主流と言えるオブジェクト指向・クラスベース(対象ごとに分類を基本として考える)という設計思想は、プログラミング言語への入門段階で習得の障壁となることの多い考え方です。しかし、以上で学んだ分類の話を理解していればすんなりと入門することができます。だいたい上記で学んだ科学的研究法、思考方法がその設計思想の基礎となっているからです。逆に実際、このような科学や数学の考え方に慣れていないで入門をすると、何をやりたいのか全く理解できないけどとりあえず慣れよう、ということになります。

一般的に、計算機科学やプログラミングの基礎的な思想というのは、数学の基礎となっている数理論理学などを土台としているか、密接に関わりを持っています。数学の基礎的な分野をきちんと修めた人がプログラミングの入門にてこづるということはほとんどないと言えると思います。計算機科学に限らず、このように学問をする上で数学、特に数学の基礎を探究心を持って学んでおいて、それが役に立たないという学問領域はないだろうと思います。

公開日:2020年11月21日
修正日:ー

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全 2 件のコメント

  • さんこ より:

    実数係数の整式の恒等式の場合、同じ次数の変数の係数が等しくなることの証明が厳密に書かれていて為になりました。要するに左辺=0の恒等式を考えると係数が0でない最大次数の項が存在するとXを限りなく大きくした時、その項の大きく(小さく)なるスピードがそれより次数が低い他の項よりも早いので式が0にならないような充分大きなXが存在しますよ、という感じでしょうか?
    係数が虚数の場合でも成り立つのか自分で考えてみようと思いました。
    他のホームページではこの証明がいい加減に書かれていて証明になってないものがほとんどだったのですごく感激しました。有難うございました。

    • 瀬端 隼也 より:

      おそらく頂いたコメントは、本ページではなく「恒等式の次数と係数、根の個数の条件の証明」、以下URL:
      https://www.hmathmaster.com/math2/%e6%81%92%e7%ad%89%e5%bc%8f%e3%81%ae%e6%ac%a1%e6%95%b0%e3%81%a8%e4%bf%82%e6%95%b0%e3%80%81%e6%a0%b9%e3%81%ae%e5%80%8b%e6%95%b0%e3%81%ae%e6%9d%a1%e4%bb%b6/
      についてのものかと思います。

      こちらこそ丁寧なコメントをありがとうございます。
      ご指摘はその通りです。まず、その観察があってそれを具体的な証明に落とし込むという流れだと思います。
      ぜひ、複素数についても考えてみてください。興味深いですよね。

      以下は余計なことですが、、
      教科書の証明不足を補いながら考えていくということは、再発見と発見を自分の頭でできるようになるということです。
      教科書の内容を再構成できるようになることがまず基本で、そのあと、教科書を読みながら自分なりのアイデアを一つ二つと各定理やテーマに加えることができるようになれば、その再発見と発見の中に自然と新規性のあるものが含まれてきます。
      研究者になりたい方は、それをノートに書き留めておけば後で発表する題材がいくらでもあるということになります。何より実力も付きますし、楽しい勉強の仕方です。
      (このように初見のメリットを生かしつつ、一つのテーマを奥深く探究する一方で、幅広く多くの分野に早めに視野を広げること調査をすること、このそれぞれのバランスも大切で研究者の個性になります。)
      研究者の方の文章にはそのようなそれぞれの個性的なアイデアがたくさん散りばめられていて読む方も楽しいものです。
      けれど、そのような先生方が高校数学の題材を書くことも少なければ、高校数学の教科書のように一般向けにオリジナリティや難易度を抑えざるを得ないという事情があります。
      高校数学でも最寄りの図書館の数学コーナーでそれなりに著名な数学者の方が書いた気軽な一般向けの数学書を探すと面白い内容がたくさん書かれてあるのでお勧めです。

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